Galactic Pharmacy


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Episode 0.1
-Explosive Girl-

-1-


< ...payment for 4 jumps from the 4th planet Hakris to the 9th planet, Tiebarm received. Thank you and enjoy your stay. >
     The Wormgate Corporation's business-like AI finished talking and switched off. The receptionist this time was a male character, so Steve really wasn't looking forward to it. Mercia, on the other hand doesn't care one iota about the sex of the AI, but if she had to choose she would prefer to chit-chit with the male image.
     The wormgate is a jump technology that was discovered from ancient Christian Era documents relating to wormhole theory. It is different from warp speed flight. It is more like jumping instantly over long distances without suffering from the effects of time dilation due to the Theory of Relativity. The time that passes between entering and exiting the gate is approximately 0. The formal procedures and waiting in line to use the gates on the other hand, are a pain in the butt. Simply put, it's a space highway. But it doesn't go everywhere. There are gates linking star systems together (or more accurately the capital planets of each star system) and there are gates linking each planet in a star system together, but to go from planet to planet you have to stop at all the planet gates inbetween.
< Since Juverus, the 7th planet, is currently in a state of war we can go straight from the 6th planet to the 8th planet. Gate fee for Juverus is waived. >
     ファイは経済的実権を握っているわけではないが、微妙にうれしそうな表情をしている。その分船体のメンテナンスに回してもらえる可能性が上がる確率を裏で計算していたのだろう。
「あそこはいつまでドンパチやってるんだ?」
《約200年前から赤道付近の温暖地域を巡って南北戦争が続いているようですが、最近は南軍が押しているようですね。といっても決着がつくまでにはあと100年はかかりそうですが......》
「星の名前を聞いただけでも寒気がするわ」
     メルシアは成人する前から既に冷え性で、寒冷地域の仕事を好まなかった。ユベラス星は居住用惑星の中では恒星エクセドラから最も離れており、惑星全体の年間平均気温はマイナス8セルシウス(0セルシウス=0℃)で表面積の83%が極寒の銀世界と化していた。
     
《これより本船は、第6惑星ローナインゲートから第8惑星ケイラ-ティナへ向かいます。ユベラスゲートは戦争により閉鎖中ですので回避します》
「むむ、このXXXY-IIってのは使えそうだな。......あ?ああ、よろしく」
     各ゲートで1時間ずつ待たされていたスタイヴとメルシアは毎度のことだが極限まで退屈を味わうことになる。スタイヴはファイに命令してネット界から掘り出させた違法媚薬の情報を斜め読み、メルシアは自室で仮眠をとっていた。
《あのぅ、その薬って一体誰に使うんですか?》
「あン?これはだな、ハクリスのお嬢様で......うっひっひ、内緒に決まってるだろ~」
《虚しくはないですか?こういうのってお互いの気持ちの疎通が大事だと思いますけど》
「今日は妙にからむんだな」
《いえ、別に......薬の功罪の判断って難しいですね》
     ファイは自分自身の立体映像を消し、操船に最大限の能力を集中させたようだ。スタイヴはファイの言葉の裏に隠された意味がわからず、少しの間口が半開きのまま固まっていたが、またすぐに媚薬漁りに戻ってしまった。
     転送指定位置で静止していた<リコリス>は微速で進みながら、大型の彗星に匹敵するほど巨大な円形のゲートの中に消えていった。ゲートの入口と出口では時間の経過は全くないに等しいのだが、内部の亜空間の航行においては生身の人間は人によって数分だったり数時間に感じたりする不思議な現象がよく起こるという。
「今日はいつもより長く感じるな」
「ただの錯覚よ。薬使いすぎて疲れてるんじゃないの?」
     自室からメルシアが戻り、ファイの負荷値を監視しはじめた。ゲート間航行は特例を除き全て自動操縦だが、不測の振動などでまれに余計な計算を強いられ過負荷状態に陥るのを防ぐために監視する規定になっている。
「俺は使ってないよ。健康マニアだって言ったろ」
「薬を盛られた相手にとっては不健康極まりない存在よね」
「フン、大きなお世話だ」
《第1種警報!大変です!ゲート管理システムの不具合発生。このままでは閉鎖中のユベラスゲートに出てしまいます!》
     青白い顔をしたファイがノートサイズのサブモニターのなかで暴れている。操船に専念するため、少しでも負担がかからないよう自身の立体映像は消したままだ。
「何だと!?進路変更はできないのか?」
《で、できません!現在のところ完全にユベラス側にコントロールされており、亜空間側からではハッキング不可能です。ローナイン側、ケイラ-ティナ側双方のシステム共にコンタクト取れませんでした》
「まさかとは思うけど、自律プログラムを構築する新種のウィルスに接触したんじゃないかしら......ファイはどう思う?」
《私の予測では、強い磁場に曝されたまま放置されていた影響によってプログラム自体に変異が起きたんだと思います。その確率は......76%です》
「理由なんかどうでもいい!ゲートを出てからのことを考えろ。あそこの磁場と重力干渉はハンパじゃないんだ!」
《ま、間もなくユベラスゲートに出ます》
「遅かったか......」
     今まで視界を支配していた非現実的な風景が徐々に透き通っていき、見慣れた宇宙空間が眼前に迫ってきた。
《通常空間に出ました......船体、システムに異常なし。あっ、でも......》
「うわっ、近っ!」
     ゲートを抜けた<リコリス>は第7惑星ユベラスの領空すれすれの所を漂っていた。あと1000ミール(約1.1km------1ミール=約1.1メートル)降下すると、ユベラスの重力に引っ張られて大気圏に突入することになる。
「これはどういうこと?こんなに星の近くにゲートが設置されているなんて」
     メルシアは操縦席から立ち上がり両手を手元のコンソール周りに突き立てた。
「200年も放置されてりゃ少しは星に引っ張られるさ。公団の連中は対空兵器の流れ弾が怖くてメンテなんかしてないだろうしな」
「どうするのよ、これから」
「どうするって言われてもなぁ、ファイ君。......おいっ、どうした!ファイ!?」
《あ......あの......気分が悪くて......》
     自身の立体映像を復活させ座席のてっぺんにふわふわと座っていたファイが急に倒れ床にうずくまってしまった。
「ん?さっきから星が近づいてきている気がするが......」
「そ、そんな......公表データより重力が0.2ポイントも大きいなんて。ここままだと大気圏に突っ込むわ!」
「しっかりしろ、ファイ!......くそっ!これが噂のユベラス磁場地獄かっ。電算系がいかれちまう!」
《大気圏......突入まであ......と60秒......く、苦しい......》
「操舵を手動に切り替えるわ。ファイ、こっちに回して!」
《りょ、了解......全コントロールの......99.9%を手動に......切り替えます。磁気遮蔽完了。これよりスリープ......モードに入り......はぅ》
     ファイが全てを言い終える前に、スタイヴは管理者コードを入力し強制スリープさせると、腕時計に内蔵された機械式クロノグラフのスイッチを押した。一方、メルシアは座標表示と有視界だけに頼って舵を取っているため位置がわからず苦戦していた。
「そんな化石モドキ、動くの?」
「この前、間抜けな骨董屋から巻き上げたんだ。可動するものの中では銀河系で最古の機械式時計だとさ。っていうか無駄口叩いている余裕ないだろ!あと30秒!」
「だめ......みたいよ。あたし手動操縦はド素人だもの」
「二年近くのつき合いだが、初めて知ったよ......」
     常にAI------ファイ・アイリーに頼り切って航海していた<リコリス>は不測の事態に為す術を失い、赤い火の玉に包まれながら青白く煙る惑星ユベラスに墜ちていった。